「さっさと不況を終わらせろ」

http://www.amazon.co.jp/%E3%81%95%E3%81%A3%E3%81%95%E3%81%A8%E4%B8%8D%E6%B3%81%E3%82%92%E7%B5%82%E3%82%8F%E3%82%89%E3%81%9B%E3%82%8D-%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%83%9E%E3%83%B3/dp/4152093129/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1361707519&sr=8-1
間に色々あったので遅くなりましたが読了。いわずとしれたノーベル経済学賞の先生が書いた、不況をどう終わらせるか、の本。タイトルと、表紙のおっさんのニヒルな笑顔に惹かれて買ったんだが、非常に満足。

趣旨は非常に簡潔で、「現在の不況を終わらせるには、政府がガンガンと財政出動しろ!」です。これを話すための大筋としてはこんな感じ。
まず、今の時代がどういう時代なのか、という話から入る。不況がひどいって言う人もいるけど、そろそろ復帰してきたって言う人もいるよね。ほんとにひどいの? はい。ひどいんです。毎年数兆円規模で価値が毀損しているし、もっと仕事ができるはずなのに仕事ができていない、もしくは職がない人も多いし。
じゃ、何とかならないの? なんともならない、という人も結構いる。さぁ緊縮財政。これは放漫が招いた罰であり、我々は甘んじて受け入れ、謙虚に生きなければいけない。ってね。
ばーか。これは経済学的には単純で、しかも半世紀以上前に既に対処法までわかっている問題なんだ。非常に古典的な「需要と供給」の話であり、需要がないからデフレスパイラルする。だから需要を増やせばいい。増やせるのは(民間では無理なので)公共がやる。と。

すると反対する人がいっぱいいる。国債の信用問題がでてきたらどうするんだ。ハイパーインフレが起こって経済が崩壊したら。そもそも財政出動とかやっても今まで効果なかったじゃないか。うんぬん。これらの問題についても、一般人にわかりやすく、非常にユニーク(毒舌)な語り口で説明している。国債の信用は自国通貨建てならそんな無茶な低下しないよ。ハイパーインフレは、そもそも民間が貯蓄した金を出動させてるだけだから極度な需要過多にならない(=急速な物価上昇をしない)よ。今まで効果なかったのは意味がなかったんじゃなくて足りなかったんだよ。と。

ざっくり言うとこんな感じが書いてある。ただ、語り口が上述より更にひどくて、いわくこいつは「大嘘」を言っただの、バカだのみたいな話がごろごろしてる。ひどく皮肉屋。それが面白くもあるんだけどね。
あと、これらを実行するために必要な政治的な考慮も述べられている。これはすごいことだと思う。アメリカならではなのかもしれないけど。
結論は上記で終わりなんだけど、なぜこうなるのか、主張の根拠と、実際に実施したらどうなるのかといったあたりを含め、非常に読みやすく書かれている。上記に対して「ほんと?」と思ったら、読んでみる価値があると思う。
あと、訳者の人が優秀だと思う。クルーグマンの文体(原文を読んでないからわからないけど)をちゃんとユーモアある日本語に翻訳しているのはもちろんなんだけど、最後に「訳者解説」が20ページ近くもある。ここで彼は「クルーグマンは好きなんだけど、言い方がひどすぎて無駄に敵を作っている。こういうのを止めればもっと浸透するのに……」と書いている。それがわかっていながら翻訳し、しかも忠実に表現を伝えられえる(さらに本文中に、訳者の意図のような無駄な訳注がない!)のはすばらしい。こういう仕事ができる大人になりたいものだ。

ただ、こういうのは片方の主張だけを見て判断するのは良くないので、次は反「リフレ」派(リフレ:強制的なインフレ)の本を読むことにしよう。